指揮者のヴィルヘルム・フルトヴェングラーが亡くなったのは、1954年。ステレオ録音のはじまりも1954年で、残念ながら、録音された機会はなく、残された録音はすべて「モノラル」です。
■疑似?ステレオ
モノラルの音をステレオにしてしまう「擬似ステレオ」というのがあると聞いたとき、「最新の技術だとそんなすごいこともできるのか!」と思いました。
しかし、擬似ステレオ=ブライトクランクという技術はかなり古いものです。
現在の技術なら、何とかパソコンで加工して、音を抽出して、パンを分けてなどすればできるかなと思います。
当時の「ブライトクランク」は、本物のステレオ録音と言うより音の広がりを重視した疑似ステレオで、レコード化(のちにCD化されています)されました。ブライトクランクは、例えば、右にコントラバス、左にバイオリンなど、はっきりした楽器の配置ではなく、頭の中でステレオに聴こえるという技術です。
聴いてみると「確かにステレオ、だけど何か違う、いや広がり感はある。けど不自然。…」というのを繰り返す内に、演奏がよいからいいのかな、「まあ悪くはない」と聴き進めていく感じです。
あらためて、フルトヴェングラー指揮のものをステレオ化しようとしたら、もっといろいろできそうですが、誰もやりません。モノラルが悪いというわけでもなく、そのまま聴くのが一番というのが今の状況のようです。
ブライトクランクは、ステレオに背伸びしようとした過渡期の文化として受け止めるとおもしろいかと思います。
■あまりみかけなくなってきますが
ブライトクランク盤は、CDでもあまり見かけなくなってきています。
人工的な技術が、「ピュアオーディオ」となじまないのでしょうか。
現在は、板起こしや、モノラルでもよい音(演奏の良いものだと音が多少悪くてもよく聴こえる)もありますので、無理にステレオ化しないということです。
もし、「新発見・フルトヴェングラーのステレオ」という本物が出てきたら、それは楽しみでもありますが、難しいかもしれません。